妙恭帖 第十九帖
「『損をしたくない』という鎖」
不妊治療は、一度始めると、
まるで出口の見えない暗いトンネルを
走り続けるようなものだと聞いたことがあります。
Mさんも、
もう5年もの間、
その暗いトンネルを走り続けていました。
ずっと都内の病院で治療を受けていましたが、
旦那様の転勤で地方へ引っ越してからも、
同じ病院で治療を受けるために、
時間と交通費をかけて通い続けていました。
ある時、
たまたま仕事でMさんの住む地域の近くへ
行くことになりました。
そのことを伝えると、
「お茶しませんか?」
と声をかけてくださいました。
きっとMさんは、
ずっと胸の中に抱えていたものを
誰かに聞いてもらいたかったのかもしれません。
「子どもが欲しい」
「友達は結婚してすぐに子どもに恵まれたのに、
どうして私はできないんだろう」
「旦那は『どっちでもいいよ』って言うけれど、
私は子どもを抱きたい」
「旦那にも、
柔らかな赤ちゃんを抱かせてあげたい」
いろいろなお話をされました。
でも、
その中で一番強く感じた心の叫びは、
「今、治療をやめたら、
今までかけた治療費も、交通費も、時間も、
全部無駄になってしまう!」
という言葉でした。
子どもができなかったら、
これまで頑張ってきた自分の努力まで
「なかったもの」にされてしまう。
Mさんは、
それが怖かったのかもしれません。
今日のタロットは、
「死神」
です。
死神は、
「すべてを奪われる」
というカードではありません。
役目を終えたものを終わらせることで、
次の世界へ進ませてくれるカードです。
「今まで費やした時間を
無駄にしないために続ける」
のではなく、
そこで経験したこと、
感じたこと、
学んだことを持って、
次へ進んでもいいのです。
終わることは、
失敗ではありません。
手放したからこそ、
両手が空いて、
神さまから次にいただくものを
受け取れることがあります。
タロットは神さまが、
私たちの魂を自由にするために
与えてくださったバイブルです。
死神のカードは、
「失うことを恐れなくていい。
役目を終えたものを、
もう手放してもいいんだよ」
そう教えてくれているのかもしれません。
実は先日、
久しぶりにMさんとLINEでお話をしました。
結局Mさんは閉経を迎え、
子どもを授かることはなかったそうです。
閉経を迎えるまでは、
「その日」が来ることが
怖くて仕方がなかったそうです。
けれど――
実際にその日を迎えてみたら、
思いがけず、
心に静寂が訪れた。
そう話してくださいました。
今では、
旦那様との二人の暮らしを
楽しまれているそうです。
そしてMさんは、
こんなことを言いました。
「わたし、
何と戦ってたんでしょうね」
終わることを、
あれほど恐れていたのに。
終わったその先に待っていたのは、
「喪失」だけではなく、
ずっと欲しかったはずの
心の静けさ
だったのかもしれません。
私たちは時々、
「ここまで頑張ったんだから」
「ここまでお金をかけたんだから」
「ここまで時間を使ったんだから」
と、
過去に費やしたものを取り戻すために、
未来まで差し出そうとしてしまいます。
でも、
これまで歩いてきた道は、
結果が思い通りにならなかったからといって、
無駄になるわけではありません。
あなたが歩いた道は、
ちゃんとあなたの中に残っています。
だから、
もう役目を終えたものなら、
手放してもいい。
その両手を空けたとき、
次に神さまから渡されるものを
受け取れるのかもしれません。
魂を自由に。





















